北海道東部の山間部、手つかずの自然が残るチミケップ湖を見渡す深い森の中にチミケップホテルはある。冬の雪景色や夏のアウトドア、澄んだ空気を目当てに訪れる人もいれば、極上の食の体験を求めてやってくる人もいる。
宿泊施設は地方によくある一般的な宿だが、ダイニングルームで供される料理は別格だ。腕を振るうのは、シェフの渡辺賢紀氏。フランスで修業し、カリフォルニア州ナパバレーのミシュラン三つ星レストラン「フレンチランドリー(French Laundry)」やサンフランシスコの「ベニュー(Benu)」(当時話題の新レストランでその後三つ星獲得)で経験を積んだ。
静岡県出身の渡辺氏は、偶然の巡り合わせで北海道に来た。2012年、米国ビザの更新手続きを待つ間にチミケップホテルを手伝い、その環境のすばらしさに魅了されたのだという。
ほどなくホテルの厨房を任された渡辺氏は、メニューを一新する。どこにでもあるようなコンチネンタル料理をやめ、代わりに北海道の旬の食材を生かす料理を考えた。オホーツク海で水揚される魚やホタテ貝、うに、小エビを仕入れ、地元の小規模農家から牛肉や豚肉を調達する。夏にはホテル周辺で野生のポルチーニ茸を収穫する。
ジビエも料理に使う。熊、豚、鶏の肉を混ぜたものをパイ生地で包んで焼き上げるパテ・アン・クルートは絶品だ。ホテルを囲む森に自生する山菜もメニューに載る。チミケップホテルは2017年にミシュラン一つ星を獲得した。渡辺氏がふるまう料理は、ここを訪れる人の期待を裏切らない。