秋田市の閑静な住宅街にある日本料理たかむらは、市中心部の賑やかな飲食店から一線を画す存在だ。店主・高村宏樹氏はあえて、地元の他の料理店のメニューにのる郷土料理とはまったく異なるスタイルの料理を提供する。
高村氏は、東京にあった江戸料理の最後の名店、伝説の「太古八」で腕を磨いた。江戸料理とは、徳川幕府が統治した時代に江戸で発展した、繊細ながら洗練された料理である。22年前に故郷の秋田に戻って店を開いた高村氏は、江戸料理の伝統を守りつつ新しい要素を取り入れてきた。
カウンター前のオープンキッチンで料理を作る割烹スタイルの店で、個室はない。料理はおまかせコースのみ。旬の素材を使い、見た目にも美しく盛り付けた料理が次から次に供される。高村氏が考案した「新江戸料理」のひとつ、かぶら餅は、ピューレにしたカブをキューブ形にととのえて直火で焼き、キャビアと金箔をあしらった逸品だ。
全国的に有名な秋田産の比内地鶏を使った料理も人気が高い。移動式の水コンロをカウンターのすぐ近くまで引き、客の目の前で、高村氏自ら地鶏に備長炭で火を入れて仕上げをする。香ばしい匂いを嗅ぎながら焼きあがりを待つ。
繊細な陶器や漆器、極上の地酒とのペアリングから、料理の仕上がりを目の前で見るというワクワク感にいたるまで、料理の洗練さと細やかなサービスを期待する人たちで、たかむらのカウンター8席は秋田市で最も予約が難しい場所となっている。