岩手県の中心部に位置する佐々木要太郎シェフのオーベルジュ兼レストラン「とおの屋 要」は、日本で他に類を見ない存在だ。木造の米蔵を移築して改装し、伝統とコンテンポラリーなスタイルをシームレスに融合させた趣あるレストランは、日本でもまだあまり知られていない、この地方特有の食文化を存分に楽しませてくれる。
佐々木氏は、遠野を訪れる人たちに宿と食事を提供してきた民宿の4代目として生まれた。地元で何百年も親しまれてきた郷土料理を父親から学び、その後、独学で自身の料理を極めてレストランを開いたという。
佐々木氏の料理は京都の洗練された懐石料理を基本としつつ、生まれ故郷の食の伝統を継承し、同時に外部の影響も自由に取り入れた点が特徴だ。例えば、小麦グルテンを餅粉とあわせて蒸した伝統的食材で、ポレンタのような食感を持つ生麩は、佐々木氏自身が熟成させた生ハムのスライスをのせていただく。「ひっつみ」と呼ばれる地元のうどんには、自家製チーズと、ボッタルガのように塩漬けして乾燥させたホヤを削って振りかける。まるでラザニアかのような食べ方だ。
しかし、料理の中心にあるのは、佐々木氏が毎年、自身の水田で完全有機栽培する米であり、毎回食事の締めとして供される。現代の日本酒の前身とされ、伝統的で素朴な味わいの白濁した酒「どぶろく」の醸造も佐々木氏は手掛けている。
佐々木氏が助手1人と厨房を切り盛りするレストランは、予約を受けるのは食事ごとに1組8人まで、宿泊は1日1組6人まで。人数を限定して利用者に特別で思い出に残る体験を約束する。