豊かな風味と地元の新鮮な食材へのこだわりの強さという点で、片折は唯一無二のレストランではないかと思わせる。石川県金沢市の浅野川左岸、この静かな一角にひっそり佇む料理人・片折卓矢氏の小さな店は、オープンしてわずか3年にもかかわらず、すでに日本で最も予約がとれない店の1つに数えられる。
一流のシェフなら誰もが最高の素材を求めるが、そんな中でも片折氏の熱量は群を抜く。毎朝数時間かけて県北の能登半島や、隣接する富山県の故郷、氷見の漁港に車を走らせるのも、最高の食材を仕入れるため。港に揚がる魚を自分で目利きし、競りが始まる前にはその日一番の魚に狙いをつける。
その日に水揚げされた海産物や、畑や山で収穫された新鮮な食材だからこそ、シンプルに料理して素材本来のうま味を引き出していく。この必要最小限(ミニマム)なアプローチを完成させるのが、片折氏が作る格別の出汁。客の目の前で削る鰹節を合わせて丹念にひく出汁が、食材のうま味とともに体に染みわたる。
冬の料理の主役は蟹だが、秋には短期間、松茸を地元の生産者から直接仕入れている。人気店でわずか7席のカウンターを確保した幸運な客たちにとって、この2つの貴重な食材が運よく揃って供されることを期待して待つのも楽しみとなっている。