日本海に面する金沢市は、新鮮な海の幸の宝庫として知られる。すし処めくみの主人・山口尚享氏は、毎朝、数百キロ離れた能登半島の漁港に車を走らせる。水揚げされた魚を目利きし、その日7人の客のために納得のいく最高の素材を仕入れるためだ。
山口氏は2002年、金沢市の隣、野々市市の住宅街にめくみをオープンした。当初は東京での修業時代に培った江戸前の技術を踏襲したが、地の利を生かしてさらなる高みをめざし、独自のスタイルに行きついた。
漁港で厳選した魚には、新鮮さを保つため、「神経締め」と呼ぶ処理を施す。店に戻るまでの長距離移動では、鮮魚を横向きに寝かさず、縦向きの状態でケースに入れて運ぶ。魚が傷まないようにと、自ら編み出した方法だ。
鮨に使う米にもこだわりがある。知る人ぞ知る品種の「ササシグレ」を好み、昔ながらの天日乾燥でいまも仕上げている農家から買いつける。
こうして完成する鮨の違いは明白だ。最高の鮨を供そうと、これまでかけてきた手間や情熱が認められ、山口氏は農林水産省から表彰されたほか、ミシュランガイド地域版で二つ星を獲得した。はたして、めくみには県内外から客が訪れるが、特に冬の蟹のシーズンは人気が高いという。
石川県 野々市市 下林 4-48