Pescecoは、穏やかな有明海と、その向こうに九州本土の海岸線を見渡す島原半島の海辺にある。井上稔浩シェフが作る独創的な魚介料理は、この店の前に広がる自然豊かな風景からインスピレーションを受けたものであり、随所にそれが表現されている。
大阪の調理師専門学校に通った数年間を除き、井上氏はこれまでの人生のほとんどを島原地方で暮らし働いてきた。30代半ばになったいま、地元の漁師や、雲仙岳のふもとの肥沃な土地で有機栽培を手掛ける農家などからなる生産者とのネットワークを築いている。
島原半島中央部にそびえたつ火山の雲仙岳は、井上氏が森の奥深くで汲む天然水の水源でもある。レストランで供される11皿のコース料理は、これらの厳選された豊かな食材から生まれた。
井上氏の料理の多くは、伝統的な郷土料理を進化させている。島原地方で「がんば」と呼ぶふぐの身は、稲わらに火をつけてあぶり、葉にんにくと山椒の花を添えていただく。同じくこの地方で一般的に食される繊細な手延べそうめんは、カッペリーニのように、濃厚なかにみそとあえる。
最初はイタリア料理の影響を強く受けていたが、約3年前にペシコを現在の場所に移してから、そのスタイルは急速に進化した。いまでは自身のアプローチを、海と陸の両方に紐づくことを表す造語を使い「里浜ガストロノミー」と呼ぶ。
伝統と革新、海と陸、相反する要素を再構築した井上氏の見事な料理、そして素晴らしいロケーションのおかげで、Pescecoはガストロノミー地図にしっかりとその存在を刻んでいる。