June 20, 2022
山菜料理 出羽屋
『出羽屋』がある西川町はJR山形駅から車で約40分ほど。日本百名山にも選ばれている月山の麓にあり、東北地方のなかでも特に雪深く、2月には積雪量5mを超えることもある土地だ。気象庁の観測地点がないため公には記録されないものの、昨年2022年暮れのニュースでは「積雪量隠れ日本一」と話題にもなった。町の人口は5,000人弱。かつては養蚕や林業、鉱業が盛んだったが衰退し、現在は月山を中心に夏はトレッキング、春はスキー、そして温泉という観光業が中心となっている。
そんな町で『出羽屋』は、月山・湯殿山・羽黒山という、修験道を中心とする山岳信仰の対象となっている出羽三山への行者をもてなす宿として1918年に創業した。その4代目、佐藤治樹は東京の料亭などで腕を磨いた後、2013年に実家に戻り、家業を継いだ。自らも料理長を務める佐藤は、まず厨房から改革を進めたという。
「社長としてトップダウンで物事を進めるのではなく、現場からのボトムアップで店を変えたかったのです。まず、山菜採りの名人やマタギなど、地元の生産者との交流に取り組みました。その結果、改めて月山の恵み、山菜料理をメインにしようと決意しました」
春は30種類にものぼる山菜が中心。夏は月山筍やキャラブキなどに加え、鮎やカジカなどの川魚、秋になると天然のキノコや木の実が採れ、冬はジビエも登場する。料金はスタンダードプランなら1泊2食付き1名で19,800円〜。食事のみの利用は昼夜ともに6,600円〜。佐藤自らが腕を振るうシェフズテーブルは1泊2食付き1名で38,500円〜。食事のみの利用は昼夜ともに19,800円〜となっている。
フーディーズが目指すのはもちろん、後者だ。今年2023年1月にリニューアルしたシェフズテーブルは神代欅のカウンター席。1月取材時のコース12品には、佐藤の弟で、同じく料理に携りつつ畑仕事を担う佐藤明希菜が育てたカブやホウレンソウも登場する。深い雪の下で育った野菜は驚くほど甘い。ほか、ブナの木につく“仙人の霞”と呼ばれる、不思議なコケの胡桃和えや、マタギが獲った山鳥のお椀、ツキノワグマの鍋料理など、ここでしか食べられない郷土の味が続く。
同じ山形でも北前船の寄港地として栄えた海沿いの酒田などと異なり、日本がバブル経済に沸いた80年代までは非常に貧しい山間部であった西川町。『出羽屋』の料理には、そんなこの地域ならではの先人の知恵が生かされている。冬の時期は春に採って乾燥や塩漬けにした山菜が使われる。高価な昆布も鰹節も買えなかったがゆえに、山菜やキノコで具沢山にして、旨味を抽出する方法も編み出された。それは戦後、日本各地に拡がった京都の料理文化とは一線を画すピュアな郷土の味である。そんな“山の味”を世界に発信するため、佐藤は奮闘を続けている。