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June 20, 2022

ドン ブラボー

ガストロノミー不毛の地で奮闘するイタリアン・レストラン。

ライター:寺尾妙子
撮影:鷲崎浩太郎

  • Destination Restaurants 2022
  • 東京都
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「僕の店は『Destination Restaurants 2022年』で表彰されたほかの地方のシェフのように、地元の生産者と協力しあったり、先人から受け継いだ郷土の歴史を料理で表現するような“尊さ”には欠けています。

でも、そのなかで何ができるかを常に考えています」と『ドンブラボー』オーナーシェフ、平雅一は語る。

彼の店は自然豊かで生産者が身近にいる地方でもなければ、観光地でもない。東京近郊の住宅街、調布市国領町という、およそ人々がガストロノミーを求めて訪れることのない場所にある。そこで、ピザを出すなど、地元の人にも馴染みやすいよう、メニューを工夫した。とはいえ、イタリアの名だたる店で腕を磨いた平である。ピザ一枚といえども素材や技法にこだわり、ゲストの心を掴んでいった。満席が続くようになって、少しずつガストロノミーな要素を増やし、価格も上げていった。すると次第に食通が次第に訪れるようになり、さらに料理をガストロノミーな方向へと進めた。

現時点では昼は1,595円〜でパスタかピザのランチセットを、夜は11,000円のおまかせコースを提供する。初夏、それは冷たいとうもろこしのスープで始まり、2品目はシチリア産レモンオイルをかけた生牡蠣。素材の組み合わせも驚くようなものはなく、実にオーソドックスだ。ガストロノミーを目指す平氏はどこで勝負をしているのか?

「みんなが見たこともないような料理を出せば、一瞬は流行るかもしれません。でも、長くは続かない。であれば、僕は誰もが知っている料理を、新しい作り方を開発することによって高いクオリティで出したい」

たとえば、ピザなら、ふっくらやわらかな生地を身上とするナポリスタイルは目指さず、全粒粉をミックスした生地を冷蔵庫で2〜3日熟成させ、450度の薪窯で1分半で焼き切ってみせる。そうすることで香ばしく、しっかりした旨味があり、サクッと切れ味のいい生地が焼きあがる。それは『ドンブラボー』グループにしかない味だ。冷製パスタであれば、通常なら麺をやわらかめに茹でてから、氷水で引き締めるところを、普通にソースを絡めて、その状態で鍋ごと冷やす。この技法で作る蛤の冷製パスタは蛤の出汁と麺が見事に一体化。パクチーやディルなど、香りが強いハーブをたっぷり乗せても負けない、旨味の濃い一品に仕上がる。こんな風に、さまざまな工夫を隠したオーソドックスなメニューを引き立てるのが、鮎のコンフィにシャインマスカットや枝豆を添えた、はっきりそれとわかるガストロノミーな一品だ。また、世界各国のワインに日本酒や焼酎なども取り入れたアルコールのペアリング、シャブリをイメージしてレモンピールなどを加えたブレンドティーなどが出てくるノンアルコールペアリングが、料理を一層盛り上げる。

郊外の住宅地でガストロノミーをやるのも冒険なら、ガストロノミーを謳うコースでピザを出すのも冒険。そんな攻めの姿勢が多くの食通に支持され始めている。

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ドン ブラボー

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