June 20, 2022
ヴィッラ デル ニード
長崎県の島原半島。その中央には活火山である雲仙岳が鎮座し、2009年には地質遺産として「ユネスコ世界ジオパーク」にも認定された荒々しい自然で知られる土地である。私たちの記憶にあるのは、1990年~1995年まで続いた雲仙岳の噴火活動で、38回の土石流と7回の大火砕流を引き起こし、取材で訪れた海外のメディア関係者を含む死者・行方不明44名を出したことは忘れることができない出来事だ。しかし同時に、この地域は昔から風光明媚なことでも知られ、1934年に日本で最初に国立公園に指定された3か所のうちのひとつでもある(日本の最初の国立公園にしてされたのは、雲仙国立公園・瀬戸内海国立公園・霧島国立公園である)。
今回紹介する『ヴィッラ デル ニード』は、島原半島の北西部・雲仙市にあるイタリアン・レストランだ。長崎空港から車で約1時間半。人口1万人に満たない小さな町だが、寒暖差が少ない温暖な気候で、九州一の生産量を誇るジャガイモを始め、数々の農産物の生産で知られている。今回紹介するレストランの周囲も、冬はイチゴ、夏はメロンやモロヘイヤを栽培する農家が囲み、豊かな自然の恵みに溢れた地域であることがわかる。
『ヴィッラ デル ニード』のオーナーシェフ吉田貴文は、この島原半島で生まれ育った。福岡市の飲食店で料理の道に入り、26歳で渡伊。ピエモンテで1年間での修業後、再び福岡に戻って働いた海辺のカフェで、方向性が定まった。
「そのカフェのスタッフは皆サーファーで、海辺のゴミを拾う活動をするなど、自然を守る意識が強かったんです。その姿にハッとしました。そこで当初は福岡の街中で独立するつもりだったのをやめて、故郷の自然と向き合うレストランをやることにしたんです」
2015年、実家の敷地内にテーブル6席のレストランをオープン。厨房は吉田が、サービスはマダムのはる奈が担い、2人だけで切り盛りする。
料理は昼夜共にデザート含め8〜10品、18,150円のコース1本。発酵させた羊のエキスで雲仙産のコブ高菜を煮浸しにするなど、さまざまな調理法を用いて、食材の可能性を引き出す。有明海の海苔、銛で突き、海中で神経締めした五島列島産の石鯛、有明海のフグといった海の幸。じゃがいもやヒノナカブ、イチゴといった里山の幸。さらに特産品で「世界一細い」と言われる島原素麺なども登場するほか、ヨモギなどの植物、オクラやニンジンといった野菜など、庭で採れた素材も添えられた料理はピュアで美しい味わいだ。その9割が島原産。この土地に根差したレストランを目指すなかでつながった、地元生産者との縁を大切にするという意識でやっていくなかで自然と地産地消になったという。
■Sustainable Japan Magazine (Sustainable Japan by The Japan Times)
https://sustainable.japantimes.com/jp/magazine/284