2020年のオープン直後から話題になり、あっという間に予約困難になった『Restaurant Naz』。2024年3月時点で予約は2025年夏までいっぱいだ。店がある長野県軽井沢はオーナーシェフ、鈴木夏暉が生まれ育った佐久市の隣町。日本百名山にも数えられる浅間山を筆頭に周りを山や丘陵地に囲まれた高原で、滝や湖、池など清らかな水資源にも恵まれ、日本を代表する避暑地にもなっている。東京からは新幹線で1時間超。『Restaurant Naz』は軽井沢駅から車で約20分のところにあるコンドミニアム型リゾート宿泊施設『GREEN SEED軽井沢』の一画にある。ここやほかのホテルや別荘に泊まって食べにくる人もいれば、首都圏を含めた他地域から日帰りで訪れる人も多い。
ランチ、ディナーともに完全予約制。食事の予算はノンアルコールまたはアルコールペアリング付きで5万円前後。客席はテーブル8席。最大2組の予約受付というプラチナシートである。
オープン時の2020年9月はコロナ禍ということもあり、最初は鈴木が料理、母がサービスを担う形で昼¥3,000、夜¥5,000という控えめな価格でコースを提供していたという。だが、約50種類の野菜を使ったサラダをはじめ、ハイパフォーマンスな料理がゲストから支持され、オープン以来、客席が空いたことはほぼない。そこから2〜3ヶ月ごとにメニューを変え、料理スタッフ2名も加わって、完全にガストロノミーな内容に移行した。
祖父が食堂を経営していたこともあり、料理が身近にあった鈴木は、小学生の頃から学校帰りにフナなどを釣っては自分で煮たり焼いたり。すでに地元の食材の魅力を知っていた。中学卒業後、地元のピッツェリアに入店したことから、本場、ナポリでピッツァ修業。さらに東京のイタリアンを経て、25歳で当時、ガストロノミーの潮流を生み出していたデンマークへ渡る。『ノーマ』『カドー』といった、時代を代表するレストランで研修。「もっといたかった」が、コロナ禍のロックダウンにより2020年3月、あえなく帰国。東京で店を出すことも考えたが、ひとまず地元に戻り、生産者を訪ね歩いた。わかってはいたものの、改めて地元食材の魅力に気付かされ、軽井沢での独立を決断した。
前菜のキャビアを載せた餅のフリットには近くで採れた有機ヨモギが練り込まれ、シグネチャー・ディッシュには10日以上寝かせ、燻製をかけた信州サーモン、さらに湧水で育った佐久鯉の出汁を合わせた須坂の生素麺など、地元食材が彩る。そんなコースはイタリアンでも日本料理でもないノージャンル、自由な料理だ。鈴木に言わせれば、「正直なところ、地元産にこだわりはないんです。ただ、地元にいい食材があるから使うだけ」というスタンス。だが、今やここでしか得られない体験を求めて、全国からゲストがやってくる。ガストロノミーな街として、軽井沢のブランド力が高まる一助となっているのは間違いない。