June 20, 2023
御料理 ふじ居
By TAEKO TERAO
PHOTO:TAKAO OHTA
『御料理ふじ居』がある岩瀬エリアは富山県の県庁所在地、富山市の日本海側に面した美しい街だ。北陸新幹線も停まるJR富山駅から路面電車で約20分。この街は、江戸時代から明治期にかけて、北海道から大阪まで日本海回りで商品売買をしながら航海する北前船で栄え、今も往時を偲ぶ町家が並ぶ。
岩瀬町は他の地方都市同様、時代とともに寂れていったが、2004年、日本酒<満寿泉(ますいずみ)>で知られる地元の酒蔵<桝田酒造店>の主導で始まった地域再生プロジェクトにより、息を吹き返した。工芸作家やシェフなどを誘致し、古民家を活用してもらうことで、岩瀬町は富山文化の発信拠点へと変貌を遂げたのだ。
『御料理ふじ居』もそのなかの一軒。江戸時代に廻船問屋として活躍した豪商の屋敷を再利用した店舗は、門をくぐると見事な日本庭園が現れる。ゲストはこの庭を眺めながら、¥30,250(税・サ込)のおまかせコースに舌鼓を打つ。日本酒は、お盆にぎっしり並んだ色とりどりの盃から選んだ好みの酒盃に注がれる。陶磁器のほか、近年、富山で盛んなガラス作家による盃も数多く揃う。<満寿泉>ブランドのなかで、東京でも入手しづらい希少な大吟醸のボトルがあるのも、地元で店を営む強みだ。
元々、富山市で生まれ育ち、金沢市や京都市で修業を経て、富山市内で独立を果たした店主、藤井寛徳は<桝田酒造店>による岩瀬町再生プロジェクトに賛同。2019年、この街に店を移した結果、瞬く間に評判となり、岩瀬町を訪れる人が増える大きな一因となった。
「町おこしに協力するつもりでやってきましたから、結果を出さないといけないという責任を感じています」
そう語る藤井は富山を中心に北陸の食材や器を用いる。器は骨董も使うが、「名人が育つように」と作家に特注もする。それは「次世代に文化を繋いでいく」という意思があるからだ。だから、店も自分で1人ではできない仕様にし、若い弟子数名を育て、和服の仲居にも接客を頼んでいる。「1人でやることには限界がある」と話す藤井は、人とのつながりを大切にする。
富山県は持ち家比率が全国で例年1,2位を争い、2022年度の平均貯蓄が全国6位だ(総務省統計局)。その一方、外食費が常に全国平均を下回る堅実な土地柄でもある。当然、1回の食事に1万円を使う人も少ない。そんな土地でだからこそ、高級和食店の店主として孤立せず「地元の人に受け入れられたい」思いが藤井にはある。それゆえ、食材の生産者や工芸作家だけではなく、子供の保育園や祭りを通じて、町の人とも積極的に関わりを持つ。『御料理ふじ居』に漂う和やかな空気は、そんなところからも生まれているのだろう。
■Sustainable Japan Magazine (Sustainable Japan by The Japan Times)
https://sustainable.japantimes.com/jp/magazine/345