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May 27, 2025

The Destination Restaurant of the year 2025

Himawari Shokudo 2

新しい“美⾷の地”富⼭県の個性派イタリアン。

  • Destination Restaurants 2025
  • 富山県
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今年「Destination Restaurants」に選出された10 店から、2025 年を代表する1 店である「The Destination Restaurant of the Year 2025」には、オーナーシェフ・⽥中穂積が、富⼭県富⼭市で独⾃のイタリア料理を提供する『ひまわり⾷堂2』が輝いた。富⼭市は今年1⽉「The New York Times」が発表した「2025に訪れるべき52か所」(52 Places to Go in 2025)で、大阪・関西万博の開催地である⼤阪市とともに⽇本から選ばれた街である。2024 年元⽇に起きた「令和6 年能登半島地震」で⽯川県同様、被害のあったこの地域を応援する意味合いもあるようだが、京都市などでオーバーツーリズムが問題化するなか、「⼈混みを避けながら、⽂化的な感動と美⾷を存分に楽しめる」ことが主な理由となっている。記事では建築家・隈研吾が設計した公共図書館を併設する<富⼭市ガラス美術館>のほか、フレンチビストロや居酒屋、ジャズバーなどカジュアルな飲⾷店が紹介されている。

だが、「Destination Restaurants」第1回⽬の「The Destination Restaurant of the Year 2021」を受賞した『レヴォ』を筆頭に、富⼭県には県外のみならず、海外からもゲストがやってくるようなファイン・ダイニングが増え続けている。2023 年にオープンした『ひまわり⾷堂2』も、おまかせコース1 本18,000円(税込)のファイン・ダイニングだが、その前進となる『ひまわり⾷堂』は⿊板でアラカルトのメニューを載せているような、気楽なイタリアンレストランとして2013 年に誕⽣した。同店のように最初はリーズナブルな価格設定から始めて、順調に集客ができるに従い、単価を上げていき、ガストロノミー化する流れは、地⽅のファイン・ダイニングによく⾒られるが、その背景は様々だ。

東京で修業していた⽥中は、知⼈からの誘いで富⼭市でシェフを務めるため、2012 年故郷にU ターン。だが、半年で店を解雇されてしまう。その後、アルバイトをしながら資⾦を貯め、2013 年に『ひまわり⾷堂』をオープン。客単価は当初は⾷べて飲んで6,000〜8,000円。最終的には12,000円コースの料理も置くようになったが、⽥中⾃⾝はコースには抵抗があった。

「アラカルトの場合、お客さんが選んだものを出せばいいという気楽さがありますが、おまかせコースにはクリエイションが求められます。それは僕にはできないと思っていました。でも、移転して『ひまわり⾷堂2』を始めるにあたって、借⼊も増えて席数も8 席に絞るとなると18,000円コースをやらざるを得ない。そこで実際に作ってみると、意外にアイデアが湧いてきたんです」

実際、鰹節を加えた⼭芋のクレープにホタルイカを載せた、まるで⽇本料理のような前菜があるかと思えば、アラブのファラフェル(ひよこ⾖のコロッケ)をアレンジした⼀品が登場するなど、コースには楽しいアイデアが満載。そこには本⼈の才能もさることながら、県内の料理⼈の連携によって、⾃然発⽣的に⽣まれた“チーム富⼭”の影響も多分にあるだろう。「10 年ほど前から富⼭県内のシェフたちと仕事終わりによく集まっていたんです。メンバーはファイン・ダイニングのシェフが中⼼。まだ『レヴォ』を開く以前の⾕⼝英司をはじめ、フレンチ、イタリアン、⽇本料理などジャンルもバラバラだったのですが、時折、パテを持ち寄って⾷べ⽐べるような勉強会なども開いていて、すごく刺激を受けました」と⽥中は語る。⽥中の活躍により、“チーム富⼭”の輪が広がれば、富⼭県はますます“⾏くべき場所”になっていくだろう。

“美食の地”として注目される富山県を象徴するシェフ。

毎年「Destination Restaurants」に選出される 10 店の中から、その年を代表する 1 店である「The Destination Restaurant of the Year」には、交通の便にもさほど恵まれず、震災や風評被害など、厳しい環境下で生産者や食材と向き合う、壮大なストーリーをもつレストランが選ばれる傾向が強かった。だが、今回「The Destination Restaurant of the Year 2025」に選ばれた『ひまわり食堂 2』は JR 富山駅から徒歩 10 分の好立地にあり、畑も牧場もやっていない。受賞を知った田中は「僕でいいんですか? ほかのシェフみたいに生産者とそこまで深い関係もないですよ」と戶惑いを見せていたが、実際には山菜を摘み、ジビエを狩る生産者と密にやり取りをし、農家に富山県ではまだ珍しいイタリア野菜を新たに作ってもらうこともある。

ただ、田中が謙遜するほど、富山県のシェフたちの食材への取り組みや食との向き合い方のレベルが高くなっているのも確かなのだ。昨年、審査員の1 人である辻芳樹が「Destination Restaurants」について「これは料理人だけを称えるものではなく、地域に根ざしたシェフたちを表彰すると同時に、その地域特有の美食を称えるものだ」と語っているが、富山県は「Destination Restaurants」第 1 回目の 2021 年に『レヴォ』、そして 2025 年の『ひまわり食堂 2』と 5 年で2 軒も「The Destination Restaurant of the Year」を輩出しており、全国でも屈指の“美食の地”としての地位を確立しつつある。筆者は、これまで仕事とプライベートでそんな富山県の様々なジャンルの店を訪れているが、その先々でシェフたちから「すごくいい」と『ひまわり食堂 2』を賞賛する声を聞いてきた。

そのオーナーシェフ、田中穂積の経歴は一風変わっている。富山市で生まれた田中は⻑らく、料理とは無縁の人生を送る。

「20 代は建築関係の仕事でお金を貯めてはヨーロッパを放浪していました。自炊をしながらの貧乏旅行だったのですが、卵をレンジに入れて爆発させるほどの料理音痴。当時は各国の歴史や建築、美術という文化に興味があって、食には無関心でした。それが 22 歳のとき、フィレンツェのトラットリアで食べたビステッカのおいしさに感動して、食も文化なんだと気づいたんです。同時に、食には人を喜ばせる魅力があるんだと感じたことも料理人を目指すきっかけになりました」(田中)

その後、母の他界を経て、27 歳になった田中は料理人になるべくイタリアを目指す。「でも、結局、イタリア語を話せなかったので働けず、富山に戻るのですが、富山ではどこで働けばいいのかわからなかったので、3 日後に上京して都内のイタリアンレストランで約 10 年間、働きました。当時、⻄麻布にあった『リストランテ テラウチ』で学んだ炭火焼の技法は今も僕の料理のベースになっています」。

ある日のメインは炭火でグリルした地元の銘柄豚、おわらクリーンポークのロース。焼きっぱなしの肉に素揚げしたタラの芽を添えただけ。シンプルであるがゆえに技術とセンスが際立つ。また、田中が作る料理には富山県産の魚や野菜とともに、山菜やジビエなど山の恵みも登場する。

「この店のスーシェフを務める石黑楓子の実の兄である木太郎氏がとる山菜や鹿を分けてもらっていますが、僕の店では山の食材を特に売りにはしていないんです。それは富山の本当の山奥に店を構える『レヴォ』の看板食材だと思います。富山県を訪れる観光客には県内のいろんな店を回られる方も多いですから、他の店と被らない食材や料理を出したいと思っています」。

他のシェフに対して、どこか一歩引いた姿勢を見せる田中に対し、審査員たちから「天性の才能をもつ料理人。今回のアワード受賞をきっかけに、もっと自覚をもって表に出てほしい」との声も聞かれた。だが、ちょうど、移転してキッチンも広くなり、最新の調理器具も置けるようになった。「やれることが増えて、料理の幅が広がってきました」と田中が語るように、『ひまわり食堂』はシーズン 2 に突入して新たな展開を迎えたばかり。クライマックスはこれからだ。

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Himawari Shokudo 2

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ADDRESS

富山県富山市神通本町1丁目5−18

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